表参道通信

  • 1998.10.21

    表参道通信その21 どうして私に道を聞くの? 続編

    表参道通信

     その日は、黄色とグリーンに紺の線の入ったチェックで裾がダブルのパンツをはき、底に鋲を付けたらそのままゴルフシューズになりそうな紐付きのリーガルの靴を履き、その中はもちろんアーガイル模様のソックスで、ギンガムチェックのシャツに紺のトレーナーで英国学生風にキメタうえに、その色が気に入って買ったグリーンの皮のディパックを背負っていました。気持はもう、イギリスのケンブリッジのあの石畳の学生街を歩いていたいところでしたが、渋谷の道玄坂にある東急百貨店本店で、母の誕生日のプレゼントを選んでいました。故郷に帰った時に、母の洋服ダンスの中にスーツが何点かあるのを見つけたので、そのスーツの胸ポケットを飾るポケットチーフにするつもりでした。

    1階のハンカチ売り場は、12月のパーティーシーズンにはまだ間があり、ポケットチーフは一番下の棚に数点並んでいるだけでした。それでも、その中に縁取りが楽しいポケットチーフを見つけて、色違いで何点か贈る事にして、ディパックを背負ったまま棚の前にしっかりとしゃがみこんで箱に入れた時の色のコーディネートなんかを考えながら何枚かのポケットチーフを手に取ったり、並べかえたりしていました。

    その時です。「あの鞄がいいわー。」と、とーくのほうから鞄の話をしながら近づいてくる声があります。隣が鞄売り場だから、鞄を買いたい人が歩いてきているのだと思ってポケットチーフ選びに専念していましたが、『妙に声が近いなー。』と、思った瞬間、目の前のポケットチーフの棚が視界から消え、右目の端から靴売り場、その向こうの化粧品売り場、その隣のアクセサリー売り場が流れていき、そして目の前には私より背の高いおばあちゃんが一人、私を見下ろしていました。その隣にはそのおばあちゃんの半分くらいの身長のおばあちゃんが今度は私を見上げています。右目の端には隣の鞄売り場まで見えます。私の右肩がその背の高いおばあちゃんにグワッシとつかまれ、しゃがんでいたのがその場に立たされ、振り返らされたのでした。

    事態がまだ良く飲み込めていない私に、その背の高いおばあちゃんは上から「その鞄どこで買ったんですか?」と、聞いているようです。隣の背の低いおばあちゃんはにこにこして私を見あげ、答えを待っているようです。そうらしいと分かった途端に、私の頭は急速回転し、背中に背負ったグリーンのディパックを買ったお店の場所を説明しようと言葉を選び始めます。
    『地下鉄表参道駅のA2の出口を出て、マクドナルドと伊藤病院の間を入り、角のロイヤルホストの向かえにある・・・・・えー、原宿から説明した方が分かるかな。でも、あの辺には鞄屋さん二つあるけど。えーと、お店の名前は。あれ?お店の名前。毎日のように通るけど、そういえばあのお店の名前、知らないなー。』等々、必死に考えている間に少し冷静になり、しゃがみこんでまで一生懸命に商品を見ていたのに、いきなりなんでこんな目にあっているんだという気にもなり、『えーい、スペシューム光線だ!』
    「原宿の。」「ブティック。」と、きっぱり。
    思ったとおり、二人のおばあちゃんは「原宿」の地名に恐れをなし、「ブティック」の言葉に恐れおののき、「あらそう。」と言って、また大声で何かしゃべりながらに去っていきました。ドップラー効果の様に次第に遠ざかっていく二人の声を右耳に聞きながら、私はポケットチーフを一枚握り締め、へとへとに疲れきって肩で息をしていました。

  • 1998.09.08

    表参道通信その20 どうして私に道を聞くの?

    表参道通信

     私ほど道を歩いていて、見知らぬ人に道を聞かれる人間はいないのではないかと思います。
    表参道周辺で道を聞かれれば、出来るだけ答えます。
    若いお嬢ちゃんに「この辺で居酒屋って無いですか?」と聞かれた時も、その人に合いそうな居酒屋を教えてあげました。「この辺にスーパーは無いですか?」と聞かれた時、「普通のスーパーならあそこの半地下の所、高級なものが欲しいならあそこの紀伊国屋。」と教えてあげました。知ってる事は教えます。
    でも、どこに行っても道を聞かれるのには困ります。初めて千葉市に行った時、JR千葉駅前で、持っていた地図で行き先を確認しそれを鞄にしまって歩き始めた途端に道を聞かれました。総武線平井駅からバスに乗って、目的地にちゃんと着くのか内心ドキドキしてるのに、なんとかセンターはどこで降りるのか聞かれても困ります。
    あまりに頻繁に人に道を聞かれるので「どうしてなんだろー。」と言っていたら、「人の顔見て歩いてるんじゃないの?目が合ってるのかもよ。」と言われ、目を合わさないように歩いてみても、後ろから肩をつかまれ、振り向かされて道を聞く人にはどうしょうもありません。本当にこういう人達がいるんです!いきなり、視界が180度回転し、自分の身に一体何が起こったのか分からないうちに、おばちゃんが「○○はどこ?」と聞くんです。
    こちらが自転車に乗って走っているのに、わざわざそれを止めて道を聞く人もいます。他に歩いている人がいるのにです。オープンカーを運転していて、横断歩道最前列に信号待ちで停車していたら、目の前を横断するおじさんにフロントガラス越しに道を聞かれた事もあります。
    駅の構内で、「A3の出口はどこですか。」と聞かれて、それはどこだと答えられる人がいるのでしょうか。毎日使っている駅であればあるほど、どこに行く方向かは分かってもそれのどこがAなのかBなのか覚えている人はいないはず。「あそこの案内板に出てるんじゃないですか。」としか言いようがありません。そんな答じゃ不満だという顔をされても。
    初めて行ったビルの一階のエレベーターホールで、そこのビルの案内板の前で「**会社はここにはないんですか?」と聞かれても「そこの案内板に無ければ無いんじゃないですか。」としか答えようがありません。

     道を聞かれる事が楽しい事であれば、私も気にしないのですが、歩いている時は次の段取りを考えていたり、何か考えをまとめていることが多いのです。そういう時に「すみません。」の一言も無くいきなり話し掛けられ、その人が何を言っているのか分かってみると、道を聞いているみたいで、やっと言っていることが分かって、丁寧に教えても「ありがとう。」も無し、「わかりません。」と答えようものなら非難がましい目で見られる。
    せめて、いきなり話し掛ける前に「すみません。」くらいは言って欲しいのです。そうすれば考え事を中断して、いくらか気持の準備もできるってもんです。「ありがとう。」も言うのは当然の事だと私は思うけど、そこまで要求する私がもしかしたら悪いのか、だんだん自信がなくなってきています。

     今年新たに発見したのは、眼鏡です。花粉症対策で度の入っていないごく普通の眼鏡をかけていた時期があったのですが、その間は誰一人にも道を聞かれる事がありませんでした。誰にも話し掛けられたくない時は眼鏡をかければ良いのでしょうか。でも誰にも話し掛けられたくないのでは決してなくて、もっと気持の良い、少なくとも不快感の残らないコミュニケーションがしたいだけなんですけど。

  • 1998.08.20

    表参道通信その19 結婚の夢と現実

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    「えー、ほんと。良かったねー。おめでとう。」と言ったのは男性。

    「え?どうして?」と言ったのは女性。

    私が結婚するという話で、概して男性は本当に喜んでくれるようで、特に独身男性は「ちきしょー。いいなー。」とまで言ってしまう。「ごはん作ったりしてるの。」「もちろん。」などという事になると、どうも自分の夢や希望が現われているようで。

    それに対して、概して女性は「わざわざ、結婚なんてしなくていいじゃない。」という反応。「良く決心したわね。」と。特に専業主婦の友人達は「仕事を持って、収入があって、自由で、何を好き好んで...。」と、いう事になってしまう。

    反応が男性と女性であまりにも違うのに驚きました。

    結婚に夢を持っているのは男性で、現実を見据えているのは女性のようです。そしてその現実がけっこう厳しいらしいです。

    結婚した後の家事負担や、結婚した事による不自由さを憂えて結婚したがらない女性と、いまだに結婚したら、ご飯作ってもらって、洗濯してもらって、掃除してもらって、やってもらう事ばかり考えてるらしい男性と。こんなに男女の意識が違ってしまえば、周りに独身が多いのもうなづけます。

    純白のウエディングドレスや、ブーケや、キャンドルやそんな結婚式当日だけの夢には騙されなくなってきてるんですね。女性達は。

     

  • 1998.04.20

    表参道通信その18 不動産受験新報の取材

    表参道通信

    住宅新報社発行の不動産受験新報の取材で、(株)ベストサービス研究センターのライターの瀬川佳子さんが事務所にいらっしゃいました。「登記のコンピューター化時代をどう生きるか」という特集記事で7月号に掲載予定だそうです。
    自分の仕事を愛して、イキイキと仕事をしている人に出会うのはいつでも楽しいものです。このホームページを見て取材にいらした瀬川さんに逆取材を試みました。

    「普通のビルにある普通の事務所を予想してました。」と、おっしゃる瀬川さんは、私の事務所のあるアロープラザ原宿を見て少々ビビッタそうです。オートロックのうえに、箱方のマンションの中は中庭に木があり、アンティーク調の電柱が建っていたりします。どこが1階2階かも良く分からず、初めての方は皆さんびっくりされます。事務所に入ってみると、「窓から木が見えて、森の中の事務所みたいですね。」と、また印象が違ったようです。

     普通は、司法書士という職業自体をご存じない方も多いのですが、さすがに不動産受験新報の記事を書いてらっしゃる瀬川さんは良くご存知だそうで、「一般の人は何か法律上の問題が起こった時にどこに相談したら良いかわから無いので、どんな問題でも相談に乗ってくれて1ヶ所で問題が解決すれば良いですね。」とのことでした。藤野事務所では、専門分野はもちろん速やかに処理し、その他の分野は他の専門家と提携したり、御紹介したりしてますよ、とすかさず宣伝しちゃいました。

     完全な逆取材で、パソコンやインターネットで世の中どう変ると思いますか、という質問には、「機械化で人間同志のコミュニケーションが希薄になると恐れられているけれど、ますます盛んになるのではないですか。私も同窓の仲間とメールで交信するようになって、かえって交流が密になったし。メールって人柄が出ますね。今までそんなに話した事のない人でもメールで交信して、ああこういう人だったんだーと思う事もありますね。」メールっていつでも好きな時間に見ることができるので、電話やFaxよりも連絡が取りやすかったりして、みんなで会いたい時の連絡網には最高のツールだという事で意見の一致をみました。

     瀬川さんは人に会うのが好きで、文章を書くのが好きで、ライターの仕事は楽しいそうです。ライターをしている方に愚問でしたが、文章化するのが辛くなる事はないですか、とお聞きすると「完成した後が楽しい。書きおわった後に見えてくるものがあるんです。」とのことでした。

     これからの瀬川さんは「ライターというのは自己表現だと思います。例えば他人を取材してそれを文章化しても、ポイントの置き方とかは結局自分自身が出るんですね。自分の内側にあるものを表現していきたい。自分の価値判断でテーマを探し、表現していきたい。」と実に前向きで希望にあふれていらっしゃいました。

    瀬川さんの文章で、私がどう表現されるのか楽しみです。それはきっと私であり、その文章は瀬川さん自身でもあるのでしょう。

     不動産受験新報の7月号には私の記事と一緒に、このホームページのURLも載せてくださるようにお願いしました。それを見て、アクセスしてくださる方が増えれば良いですね。また、この「表参道通信」を読んで興味を持たれた方は、是非、不動産受験新報7月号を買ってお読み下さい。同雑誌は不動産関係の資格取得を目指す方のための受験雑誌で、書店では法律雑誌やビジネス雑誌関係の棚にあります。7月号は6月1日発売予定だそうです。

  • 1998.01.23

    表参道通信その17 長野オリンピック聖火リレーが表参道に来た!

    表参道通信

     

    1月19日長野オリンピック聖火リレーが表参道を走りました。コカコーラがスポンサーらしく2、3日前から表参道は缶コーヒーのジョージアの旗がはためき、当日は走行ルートの地図とGEORGIAとロゴの入ったバッチが配られました。日本全国ジョージアだったのか、ファンタやコーラの所もあったのでしょうか。それぞれのバッチを集めるのも面白いかもしれません。

    通過予定時間の15分前くらいからたくさんの小学生が表参道に集まりました。手に手に白い画用紙で作ったような旗を持っています。絵くらい描いてもいいんじゃないのかな、と思ったら、風のせいか、角度が悪かったのか、表側はやっぱりあのGEORGIAのロゴの入った青い旗でした。

    ランナー走行を告げる予告車が走り、先導車が走り、しばらくして一際体が大きい長島一茂氏がトーチをもって伴走者と伴に走ってきました。誰もが「火が消えるんじゃないか、大丈夫か?」とはらはらと見守りました。性能が今一つのトーチも、周りの人間の気持を一つにする思いがけない効用があるようです。

    ちょうど目の前が聖火をバトンタッチする中継地点で、長島一茂氏から次の走者に聖火が渡されました。歓声が一際高くなります。元々、キャンドルやキャンプファイヤーに弱く、たくさんの人間が何かを成し遂げる事にむやみに感激してしまう私の目は、それだけでうるうるしています。

     次の走者に聖火が渡された途端に、マスコミが長島一茂氏を囲み、その周りを一般の人達が囲みました。こんなにたくさんの人が集まったのは、長島氏が走るからだったらしく、次の走行地点からは人が随分減っているようです。そういう私も、銀行に行く事にかこつけて、わざわざこの時間に事務所を出てきたのは長島氏を見る為で、単なるミーハーです。

     明日から、「長島一茂を見た!」と、「長野オリンピック聖火リレーを見た!」を、相手によって使い分け、自慢しちゃうつもりです。