• 1999.08.09

    表参道通信その29 ペーパータオル

    表参道通信

     先日、いつものスポーツクラブでお風呂上がりに鏡の前で綿棒で耳の水分を取っていたら、後ろで何度も体重計に乗っているおばさまがいます。鏡に映ったそのおばさまを何気なく見ていたら、その体重計に乗るのにわざわざそのクラブにあるペーパータオルをその体重計に敷いてその上に乗ります。最近どうもそういう風に他の人と物を気軽に共用することが出来ない人が多いらしく、そのクラブでもクラブのスリッパに右に1枚、左に1枚クラブ備え付けのペーパータオルを敷いて履くのが流行です。

     そのおばさまもどうせその手の人間で「スリッパにもペーパータオルを敷いているんだろうな。」と、足元を見ると何と自分専用持ち込みスリッパでした。「おみごと!」潔癖な人が増えたのでしょうか。そういうのを清潔志向というのでしょうか。サウナルームでも桶に水を持って来て自分の座るところを、まずその水で洗ってその上に座る人がいます。隣に座っている人の敷いているタオルがそれで濡れてもお構いなしです。

     体重計に乗るにもペーパータオルを敷く人がいるのには驚きました。そんなに他の人の触れたものに接触するのが嫌なら自分の家で自分専用の体重計で量れば良いものを。

     体重計の調子が良くないのでしょうか。そのおばさまは首をかしげかしげ、ペーパータオルを敷き、その上にバスタオルでくるんだ体を乗せ、数字を見ては納得が行かないような表情で降りながらペーパータオルをごみ箱に捨てます。また、切実な表情で体重計を眺め、ため息を付き、ホルダーからペーパータオルを引き抜いて体重計に敷き、またその上にバスタオルでくるんだ体を乗せます。そしてまだ納得がいかないようで考え込んでいます。

     どうしたのかなと見ていたら、いきなり、体に巻いたバスタオルを取り始めそれを丸めて脇に置き、最後にはすっぽんぽんで体重計にのり、数字を見つめています。納得が行かないのは、体重計の方ではなく自分の体重の方だったようです。

     「さすがにもうこれで納得したろう。」と思って見ていたらそれでもまだ納得がいかないようです。今度は足の下のペーパータオルをとって捨て、はかりはじめました。

     いかに清潔好きで、他の人の乗った体重計に直接裸足で乗るなんてそんなこととんでもないと思っていても、ペーパータオル1枚の重さも自分の体重に加算されるのは許せなかったようです。そこまでしても、まだ今ひとつ納得がいかないようで、大きなため息を一つつき、やっとそのおばさまは体重計を離れました。

     すさまじい執念でした。体重計を永久追放した私よりはよっぽど根性がありそうです。でもあのすっぽんぽんのおばさまの体型を思い出し「私はまだまだ大丈夫。」と安心してしまった私の行く末は意外に短い!?