• 1999.04.28

    表参道通信その27 東京証券取引所見学

    表参道通信

    東京証券取引所http://www.tse.or.jp/見学

     手で富士山の形を描き、その真ん中を通すようにするとそれは『富士通』、鼻をつまんで『東京ガス』、指で2、3と示し車のハンドルを運転するしぐさをしたら『日産自動車』。
    先日、東京証券取引所の見学をする機会がありました。

    私は昨年より女性経営者の会「ドンネ・リベレ」[http://www.donne.gr.jp/index.html]のメンバーになりました。出席する事こそが企画を考えて下さっている担当者への感謝の気持の現われであるし、メンバーの最低のルールだろうと思い、毎月の講演会やその他のイベントにはできるだけ出席しているのですが、今月の企画は「東京証券取引所の見学」でした。

    見学のメインはなんといっても「株券売買立会場」です。約1800㎡の広さがあり、壁一面の株価表示装置の下、青い背広の『証券会社の社員』、取引の仲介をする茶の背広の『才取会員』、取引を監視する濃紺の背広の『取引所の職員』が働いています。バブルの頃は、2000名くらいの人間でひしめいていて、歩くのもままならず、テレビでよく見たあの「手サイン」が一番早い伝達の手段として使われたそうです。証券会社の社員も体力勝負で、サインが良く見えるように、身長が高い者とか、機敏に動ける敏捷な者とか、体育会系で占めていたそうです。それが売買もコンピューターが主流になり、今は大口の150銘柄のみ立会場で売買しているそうで、立会場は閑散としており、其々のブースではただぼんやりコンピューター画面を見ているだけの様に見える人達が座っていて、ほとんど動きがありませんでした。その150銘柄も4月末には全てコンピューター売買になり、立会場は閉鎖されてしまうそうです。閉鎖される前に見ておこうという事で今回の企画になりました。

    特別に、立会場の中に入れてもらえましたが、見学者用の上の窓から見るよりは、中は広く、天井も随分高く感じました。3種類の職員がそれぞれ位置についているブースも思ったより高さがあり、突然一般人が入ってすっかり注目の的で、立会場の一番底をぞろぞろと歩いている私達は反対に観察されているような感じがしました。

    10年以上も前に、ロンドンのシティの証券取引所を見学した事がありましたが、たくさんの人が働いていて、閑散としている時と、人の動きがいきなり激しくなる時があって上から眺めているとアリの巣を見ているようでした。それもすでにコンピューター売買になって、世界的にも立会場は無くなってきているようです。

    コンピューターの方が正確で早いとのことで、ほとんどがコンピューター化しているそうですが、「株券売買立会場」には市場経済の象徴としての意味もあるそうでこれからその象徴をどこに求めるか、東京証券取引所は空いた「立会場」の空間をこれからどのように利用するかを考えていくそうです。

    立会場に替わる株券システム売買室も見学しました。その部屋にはコンピューター端末が整然と並び、その前には茶の背広を着た才取会員の方達が画面を眺めていました。全員が男性で、しかも若い方がいないのが印象的でした。コンピューター化して、体力勝負の場でなくなった上に、人数もそれほど必要が無くなって、既存の職員だけで十分で若い人を補充する必要が無いのだろうと思いました。ここにもコンピューター化の波が押し寄せ、リストラの風が吹いているようです。以前に日本銀行に不動産の立会で行った事がありましたが、ある程度の年齢以上の男性ばかりが整然と静かに仕事をしていて、銀行というよりお役所的な感じで、その時受けた印象と同じような印象を部屋に入った時に受けました。

    こういう時期ですから、株の売買にはそれほどの活気はないわけですが、もしまた景気が良くなって株取引が活況を呈するようになっても、コンピューターで整然と処理されていくのでしょう。120年の歴史を持つ株券売買立会場がなくなるという事で、寂しい気持がしますが、終わるという事は何かがまた始まるという事で、証券市場の新しい歴史が始まろうとしています。