• 1999.02.10

    表参道通信その25 馬場さんの事

    表参道通信

     猪木は「イーノーキ!」で、ガッツポーズですが、ジャイアント馬場は「馬場さん」で、どうしても呼び捨てにはできない雰囲気があります。先日、朝起きた途端に「ジャイアント馬場死んだみたいだね。」と、言われ「えっ!馬場さん亡くなったの?」と答えていました。

     私が馬場さん本人を最初に見たのは、15年くらい前、後楽園ホールです。全日本プロレスをリングサイドで観戦する機会があり、そこで当然戦う馬場さんを見ているはずですが、額が割れてだらだらと顔じゅうに血が流れているブッチャーの場外乱闘に巻き込まれ、リングサイドを逃げ惑うという強烈な体験ばかり覚えていて、馬場さんの雄姿はほとんど記憶に無くなってしまいました。

     次に馬場さんを見たのは8年くらい前、神宮のゴルフ練習場でした。馬場さんはレフティーの友人と一緒に来ていて、左利き専用打席の隣の打席でその友人と向かい合って楽しそうに球を打っていました。ものすごく大きな馬場さんが持っていたクラブは普通のものだったのか、とても小さく見えました。ゴルフを始めたばかりだったのか、余り飛ばないし、右や左に随分曲がっていました。帰りに馬場さんの打席の後ろを通りましたが、その時は椅子に座っていて、私だったら後ろに荷物を置いても充分座れる椅子にぴったりとはまった様に座っていて、あの大きな四角い背中がそびえていました。

     「馬場社長が差し出す16文の足をめがけて、社員プロレスラーがぶつかっていく。」とか、「馬場社長が倒れると、馬場さんをいじめないでー!と、場内から悲鳴が上がる。」とか、それはもうそれを楽しんでいる全日本プロレスファンの尊敬と愛情がこもったジョークです。

     テレビでは追悼番組を随分やっているようですが、どうしても見る気になれません。たまたま見ていた朝のワイドショーで、白い布にくるまれた馬場さんの遺体が車に乗せられていくのを見ました。亡くなった後までも、規格外の体を納める棺が無かったのでしょうか。「本当はやさしい巨人」という言い方も『あんなに大きいのに……。』という言葉の裏返しで、常に体の大きさが前面に出てしまって、それも悲しいような気がします。