表参道通信その49 神戸でそば飯

表参道通信

 

 神戸に行って一番食べてみたかったのは「そば飯」でした。焼きそばとご飯を一緒に炒めたあの「そば飯」です。昔から神戸では食べられていたようですが、冷凍食品で全国的に人気が出て、スーパーでも一時なかなか手に入らなくなっていた事もありました。

神戸は前から好きな街で、土曜日の朝、気分が乗ると一人新幹線に飛び乗って新神戸まで行き、三宮や須磨でホテルを探して泊まって、日曜日の夕方また新幹線で帰るということを何回かした事があります。芦屋のレフトアローンでジャズを聴いたり、旧居留地でお茶をしたり、元町を歩いたりしていたその頃には「そば飯」というのはまだ知られていませんでした。

申請した不動産登記の登記済証の回収に神戸の登記所に行く事になって、普通は事務所のスタッフに行ってもらうところですが、神戸は譲るわけには行きません。無理やり予定を組んで行った神戸です。

でも、買ったガイドブックにはあまりそば飯屋さんが出ていなくて、どういう店に行ったら食べられるのかと思っていたら、阪急電鉄の三宮駅の山側の飲み屋の多い一帯にはお好み焼き屋さんがいっぱいあって、お好み焼き屋にはメニューに必ず「そば飯」があるようでした。

ビルの2階ですがガラス張りで、外から見るとお客さんもかなり入っていそうな明るい雰囲気のお好み焼き屋さんを見つけて入りました。中は満席で、椅子に座って待っている人もいます。その最後の列に一人座って待つ事にしました。

お客さんの中に、一人で来ている女性がいて、生ビールのジョッキはもう空いているのにまだ注文した品は出ていないようでした。なんだか怒っているような風でもありつまらなそうな風でもあり、「注文してもなかなか出てこない、手際が悪い店に入っちゃったかなー。」「違う店に入った方が良かったかなー。」と思いました。でも、しばらくお店の人の動きを見ていると、それほど手際も悪くないし、はきはきと機敏に動いていました。そのうち、その女性のところにはお代わりの生ビールとねぎ焼きと焼きうどんも出て、「けっこう食べるんだなー。」と思い、私もそば飯と生ビールだけのつもりが、つられてなすバター焼きまで注文しました。

鉄板を敷き詰めたテーブルの上に出てきたそば飯は、ご飯に焼きそばにお肉を炒めてあり、中にはシャキシャキと歯ごたえの残る生に近いキャベツが入っていて、それが全体をさっぱりとさせて半分サラダ感覚で、意外とさっぱりとしていました。私はそれにマヨネーズを出してもらってそれをかけたり、テーブルにのっている辛口ソースをかけたりして、皿に盛るたびに味をかえて楽しみました。ビールも入った事もあり、念願のそば飯は期待以上においしくて一人でもなんだかうれしくてルンルンしながら、食べていました。

すると、背後からテーブルの上に何かを「バン!」とのせていった人がいます。その人の縦じまの袖と手の甲だけが見えて、何が起こったのか分からないでいました。するとテーブルの上にのっていたのはなんとそこのお店の「ドリンク一杯無料券」でした。

振り返ると、その縦じまのコートを着た女性がレジで支払いをしています。その人はさっき私が「女性一人で来るんだなー。」と思って見ていたその人でした。支払いが終わるのを見計らってドリンク無料券を手に持ってその手を振ると、その人はこちら側に向けた頬だけでニッと笑ってお店を出て行きました。一言も言葉を交わさない、一人で来た女と女の不思議な連帯感。

また、ますます神戸が好きになりました。