表参道通信その59 浅田次郎

表参道通信

 困っている。読む本が無くなってきている。今読んでいるのは浅田次郎著「カッシーノ2!」平成19年11月15日に幻冬舎アウトロー文庫から初版が出た。ここ最近ずっと浅田次郎を読んでいる。片っ端から読んでいて、もうそろそろ他に読むものは無いのでは・・・という状態になってきた。

 本を読むのは、通勤や移動の電車内だけなので、文庫本のみ。重い単行本は買わない。浅田次郎は「あ」から始まるので、本屋さんでは発見しやすい。全出版社を先頭から見ていく。一人目か二人目にあるか、何も無いか。それがもう読んでいない本が無くなった。「カッシーノ2!」は最近文庫本になったから、発見した時は「おおっ!」と歓声を上げた。一番上の一番左にあったのを店員さんに取ってもらって買った。それも今日読み終わった。さて、次はどうする。浅田次郎編という短編集くらいしか残っていない。あとは文庫本化するのを待つしかない。最新刊「中原の虹」はいつ文庫本になるだろう。

 一番最初に浅田次郎を読んだのは、3年位前に出張で神戸に行った時だと思う。品川駅の新幹線乗り口の近くの本屋で何気なく「天国までの百マイル」を買って、往復の車内で読みきった。帰りの車内では思わず涙。でもその時は浅田次郎はそれっきりだった。

 それが去年、打ち合わせに浜松町に行った帰り浜松町の貿易センタービル内の本屋で「プリズンホテル」を買って読んだ。プリズンの意味も知らず、なんだか軽快で面白しろそうという印象だけで買った。それがいきなり嵌った。夢中で読んで笑って最後に涙。あまりに没頭して目つきが思わずその業界の人のようになりそうだし、主人にも勧めて、夫婦の会話はいつしか業界用語という事態にもなった。
「ぬぁーにぃー、兄さんそれゃ指がいくらあっても足らんねぇー。」みたいな。

 プリズンホテルは全巻何回も読んだ。読むたびに笑って、読むたびに泣いた。電車内で笑いをこらえるのに苦労した。その後、プリズンに出てきた「血まみれのマリア」が気になって「きんぴかシリーズ」へ。他の浅田次郎も読む気になって、「日輪の遺産」のようなヘビーなものの後は「勇気凛凛ルリの色」のような軽妙なエッセイ、肩に力を入れて「蒼穹の昴」を読んだ後、「天切り松 闇がたり」でスタイリッシュに軽快に近代日本に思いをはせる。思い余って同書に出てきた上野精養軒に食事にも行った。「鉄道員」を読んだ後はDVDで映画の「鉄道員」を見て泣いた。

 やくざ物だったり博打物だったり、中国歴史物だったり、近代日本だったり、はたまた新鮮組だったり、ミステリーや青春短編集もあり、節操がないとしか言いようの無いジャンルの広さ。講演もあるようだし、JALで行く浅田次郎と晩餐をする中国ツアーなんかもある。私が中で一番面白いと思ったのは、経験者にしか書けないと思われる「残債なんか、屁でもねぇ。」という台詞。あのバブルの頃に事業に携わっていたり、経済界にいた者にしか書けない台詞だと思う。所々にそういう文章や台詞があり、あの頃にそういう人たちを身近に見てきた司法書士としては、ものすごく浅田次郎を身近に感じてしまった。

 「全部読むぞー!」と読み始めた浅田次郎もさすがにそろそろ読むものが無くなってきた。混雑する車内で浅田ワールドに浸って、あまりに密着する他者との決別をはかって身をもたせてきたものとしては、後は何にすがって自分を保っていたら良いものか、さびしい限りである。

【読んだ本】
きんぴか① 3人の悪党
きんぴか② 血まみれのマリア
きんぴか③ 真夜中の喝采
プリズンホテル1 夏
プリズンホテル2 秋
プリズンホテル3 冬
プリズンホテル4 春
日輪の遺産
地下鉄に乗って
蒼穹の昴 1、2、3、4
天きり松 闇がたり① 闇の花道
天きり松 闇がたり② 残狭
天きり松 闇がたり③ 初湯千両
天きり松読本
鉄道員
鉄道員 /ラブ・レター
活動寫眞の女
月のしずく
珍妃の井戸
見知らぬ妻へ
霞町物語
天国までの百マイル
シェエラザード 上下
壬生義士伝 上下
浅田次郎新鮮組読本
薔薇盗人
姫椿
歩兵の本領
王妃の館 上下
オー・マイ・ガアッ!
沙高樓綺譚
椿山課長の七日間
五郎治殿御始末
輪違屋糸里 上下
霧笛荘夜話 上下
憑神
極道放浪記① 殺られてたまるか
極道放浪記②
初等ヤクザの犯罪学教室
勇気凛凛ルリの色
勇気凛凛ルリの色 四十肩と恋愛
勇気凛々ルリの色 福音について
勇気凛凛ルリの色 満天の星
サイマー!
カッシーノ!
カッシーノ!2
ひとは情熱がなければ生きていけない
見上げれば星は天に満ちて

上野精養軒