表参道通信その 5 補助者をしながら司法書士試験合格を目指している方へ

表参道通信

 私の事務所では、一昨年の東田に続き、今年は畑が司法書士試験に合格しました。2人とも補助者をしながら勉強を続けてきて、合格しました。補助者が2人か、多くて3人の零細事務所ですが、こうやって合格者が出るのはなぜか、考えてみました。働きながら司法書士試験を目指している方の何かのヒントになればと思います。

 私の事務所では常に「裏を取れ。」「人を信じるな。」「武器を持て。」と言っています。ちょっと過激に聞こえますが、説明します。

1. 裏を取れ
日頃行っている登記手続は、不動産登記法、商業登記法その他関連手続き法に基づいて進めます。毎日の業務なので、当然のように流れていきますが、すべて関連法規に基づいています。
法務局で押される登記済み印のサイズ、文言、申請書の規格、字の書き方、登記事項は勿論、申請の方法まで、ほとんど全てです。

 新人が入った場合、業務の引継ぎのようにそれを教えるのではなく、今行っている作業は関連法規の何にあたるのか根拠条文にあたれ、と教えます。
例えば、毎日のように登記の申請に管轄法務局まで出かけていきますが、それはなぜか。

 不動産登記法第26条第1項・商業登記法第16条第1項に当事者出頭主義の原則が定められているからです。一方、支店の登記は郵便で出すけれども、それは遠くて行くのが大変だからではなく、商業登記法第56条第1項に当事者出頭主義の例外として定められているからです。
そして、登記手続に現われるその裏には、民法上、商法上、いわゆる実体法上の権利変動があります。それにあたれといいます。
毎日の業務では、この登記はこうやったら通ったが、こうやったら通らなかったと、申請出来たかできなかったかばかりを気にしがちですが、実体上の基礎から常に考えていると応用が利くし、それが受験上の知識にもなります。

 その仕事の裏を条文、基本書、先例でこまめにあたっていくと、かなりの知識が身につくはずです。

 例えば、抵当権の抹消でもその原因は解除、弁済、放棄等ありますが、保証委託契約による抵当権設定登記は弁済で抹消する事は出来ません。それはなぜか。○○銀行は「弁済」で抹消で、××ファイナンスは「解除」で抹消するから…ではありません。その理由を考えてみてください。

2. 人を信じるな
人の言葉をそのまま信じないで、必ず自分の知識に照らし合わせて、自分で正しいかどうか判断しろと、教えます。
人というのは、所長である私も入ります。私が命じたことでもその登記の仕方が正しいのか、預かってきた書類に間違いが無いか、自分で判断してもらいます。私にも勘違いがありますし、通った人間の数だけチェックされてより正確な仕事が出来ます。受け身なままで仕事をしないで、自分の判断で前向きに仕事をした方が楽しいはずだし、自分の知識にもなるはずです。

3. 武器を持て
法務局で、法務局の単なる勘違いで補正になったりする事があります。その場合、言われたまま補正するのではなく、一回自分の持っている知識に照らし合わせて納得いくのかどうか判断しろといいます。
いろいろ言われた事に自分で納得出来るのか、納得出来ないなら納得のいく資料をもらってくるなり、説明してもらえと言います。その判断には、知識という武器が必要になります。丸腰で戦場に出るな。知識という武器を持て。知識という武器で理不尽な申し入れをやっつけろ。勝ったら楽しいよ。と、教えます。

 司法書士試験は実務上の知識を多く問われます。しかしその知識は基礎から積み上げて体系化してないと試験には使えないのではないでしょうか。補助者をしながら受験勉強をしている方も多いですが、仕事と勉強を分けて考えるのはもったいない事です。
仕事を通して実体上、手続き上の知識を身につければいいのです。仕事で得た知識はばらばらのはずですが、その裏をあたってそれを体系化するのは自分です。基本書も過去問も1ページ目からやる必要はありません。事務所で抹消登記の仕事をしたら、不動産登記法の抹消の所と、書式の抹消と民法の弁済や解除の所をあたってみればいいのです。そうすると、自分の作った書類が何か分かるはずです。書類にあらわれてきた裏が見えてくるはずです。分かれば断然面白くなります。「忙しくて自分の時間が無い。」と、悩む必要はありません。1日中自分の時間です。

 一度詳細に登記法、細則、準則まで読んでみてください。日頃行っている業務が全てのっています。そして条文に優る武器はないのです。条文に定められている事に反論する事ができる人はいません。そして、自分の知識で納得のいくまで戦って下さい。自力で勝ったら楽しいですよ。
一度勝ったら、益々強くなりたくなります。知識という武器をどんどん身につけてパワーアップして下さい。東田も畑も自分の知識で自力で勝ってきて、得意げに戦勝報告をしていました。実に楽しそうでした。

合格した2人は、常に仕事の裏を取っていました。自分の頭で考え、自分で納得のいくまで調べていました。そしてそれが楽しそうでした。畑が言っていました。「事務所でやった事が試験に出た。」と。私の事務所は特に難しい仕事ばかりしているわけではありません。どちらかと言うとごく標準的な司法書士事務所ではないかと思います。
知識という武器を身につけて前向きに仕事をしていると楽しいはずですし、それで合格したらうれしくありませんか?
1日中自分の時間です。楽しく仕事をして早く受かってしまいましょう。