表参道通信その30 商号変更登記/役員変更登記

表参道通信

 9月1日の朝。
朝の出勤前の忙しい時間に耳に入ってきたものは、会社名を変更するというテレビコマーシャル。聞きなれたその会社名が突然テレビから流れ出し、驚いてふりかえるとやっぱりそれは、その日、うちの事務所で商号変更の登記の申請をすることになっている会社のまさにその商号変更のテレビCMでした。

 その会社の総務部の方と何度も打合せをしました。本店の移転やそのため仮登記や役員の変更登記等をしてきて、そして最後に商号変更でした。9月1日のその日のために類似商号の調査をしたり、商号の仮登記をしたり、そのために供託金を積んだり、万全の態勢で臨んでいました。事前の定時株主総会で9月1日の商号変更を決議しましたが、登記は効力発生後の9月1日以降でないと申請出来ません。だから、テレビCMの方が数時間先行することになりました。テレビCMの事は全然聞いていなかったのでびっくり。どんな登記でも決してミスは許されませんが、大きな会社であればあるほどそのミスの影響は計り知れません。9月1日のその日に商号の変更ができないような事態になってはならないとあらためて身の引き締まる思いがしました。

 その日、無事登記の申請をしました。そして、関係緒機関へ提出するための変更後の登記簿謄本が一刻も早く必要になるので、補正日より前に登記所に行ってみました。登記は無事完了していて総務部の方の「えっ!もう終わったんですか。早いですね。」の一言が聞けました。

 こういう日が来るとは、思っても、想像したこともありませんでした。お世話になった会社の社長さんが亡くなったのです。6月にその会社に伺ってお目にかかった時、随分痩せられたなと思ってはいました。しかし、歯の治療中で物が食べられないとおしゃっていたので、そのせいだと思っていました。
しかし、7月には入院され、そのまま8月に亡くなってしまいました。55歳でした。

 その社長に最初にお目にかかったのは私がまだ開業して間も無い頃でした。
話をしてこいつは面白いと思われたのか、何かしら気に入って頂き、そこの会社の会社の登記や不動産の登記の関係は全て任されることになりました。私の説明や提案には少しの疑問も持たずに受け入れて頂き、そうなると私の方もますますハッスルします。今思うと、そうすることによって俄然がんばってしまう人間だと見抜かれていたのだと思います。会社に伺ったおりにはいつも30分くらいお話を伺うのですが、世の中の事、経済の事、これからの先行きなどいつもいつも勉強になりました。

 ずっと片腕として一緒に仕事をされて来た女性は、哀しみに暮れていましたが、新社長への変更の緒手続き等、すぐにもしなければいけないことがたくさんあります。何事も手抜かり無く先を見通し、準備をすすめていた社長の遺志を継いで、会社のこれからのために葬儀の連絡やその後の役員変更等の手続きを気丈にこなしていました。

 私は役員変更に必要な書類を作成して、それを鞄に入れてその会社に伺う道すがらにもかかわらず、社長によく似たスーツ姿の男性とすれ違って思わず挨拶をしてしまうところでした。「ア、もうこの世にはいらっしゃらないんだ。」とあらためて思い、また悲しくなりました。その社長の死亡による退任による変更登記に必要な書類を鞄につめて歩く日が来るとは思ってもいませんでした。